名古屋高等裁判所 平成元年(行コ)6号 判決 1992年2月27日
名古屋市昭和区汐見町百十八番地
控訴人
中北智久
右訴訟代理人弁護士
佐治良三
同
太田耕治
名古屋市瑞穂区瑞穂町字西藤塚一番地四
被控訴人
千種税務署長事務承継者昭和税務署長 手嶋英夫
右訴訟代理人弁護士
浪川道男
右指定代理人
山下純
同
金川裕充
同
間瀬暢宏
右当事者間の贈与税決定処分等取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
(当事者双方の求めた裁判)
一 控訴人
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人(千種税務署長)が昭和四四年六月一〇日付でした控訴人の
(一) 昭和三九年、同四〇年、及び同四二年の各年分の贈与税の決定、及び無申告加算賦課決定処分(但し、いずれも、異議決定、及び審査裁決により一部取り消された後のもの)、
(二) 昭和四一年分(前同)、
(三) 昭和四三年分贈与税の決定、及び無申告加算税賦課決定処分(前回)のうち、贈与税額金七一〇〇円、無申告加算税額金七〇〇円を超える部分、
をいずれも取り消す。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
との判決。
二 被控訴人
控訴棄却の判決。
(当事者双方の主張)
当事者双方の事実上及び法律上の主張は、次に付加する外、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する(但し、原判決二一枚目裏六行目の「請求原因」を「被控訴人の主張」に、同七一枚目裏五行目の「五〇パーセント超」を「五〇パーセント以上」にそれぞれ改める)。
(控訴代理人の陳述)
比準価格の計算について
一 訴外会社の昭和四一年一月から同年九月三〇日までの事業年度の利益の計算については、未収補償金五四三四万二〇〇〇円が、会計処理方法の変更による利益の重複であるから、すでに減算されている金三〇八〇万円を控除した金二三五四万二〇〇〇円をさらに控除すべきである。
二 したがって、昭和四二年三月一一日を課税時期とする計算については、重複減算前の一年間の利益が、金一億七三〇〇万四〇〇〇円であるから、これから金三〇八〇万円と金二三五四万二〇〇〇円の合計金五四三四万二〇〇〇円を差し引いた金一億一八六六万二〇〇〇円が正確な一年間の利益となり、一株あたりの利益は金一一八円となる。
三 また、昭和四二年九月一二日を課税時期とする計算についても、重複減算前の一年間の利益が金八四四一万一〇〇〇円であるから、これからさらに金二三五四万二〇〇〇円を差し引いた金六〇八六万九〇〇〇円が正確な一年間の利益となり、一株当たりの利益は金六〇円となる。
(被告代理人の陳述)
控訴人の右主張は争う。
(証拠関係)
本件記録中の原審及び当審における書証目録及び証人等目録の記載と同一であるから、ここにこれを引用する。
理由
一 当裁判所は、控訴人の被控訴人に対する本件請求は、被控訴人の本件処分のうち、本判決別表二四の該当欄記載の各金額を超える部分の取消しを求める限度で、(但し、昭和四一年分及び同四二年分は除く)、正当としてこれを認容し、その余を失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次に訂正、付加する外原判決の理由説示と同一であるから、ここにこれを引用する。
1 原判決七五枚目表六行目の「第五、六号証の各一、二、」を「第五号証の一、二、第六号証、」に、同九行目の「柳沢正義」を「柳沢政美」にそれぞれ改め、同裏四行目の「及び」の次に「原審並びに当審における」を加え、同七八枚目表九行目の「昭和三九年三月一八日」を「昭和三八年八月一〇日」に、同一〇行目の「一万六〇〇〇株」を「一万五〇〇〇株」にぞれぞれ改め、同八三枚目裏末行の「(いわゆる」から同八四枚目表二行目の「参照。)」までを削り、同八六枚目表八行目の「二八条一項」の次に「、三三条」を加える。
2 原判決九二枚目表七、八行目の「、有限会社法四一条、同法六三条」を削り、同一〇二枚目表末行の「会社会議」を「全社会議」に改める。
3 原判決一一六枚目表五行目と六行目の間に、行を変えて次のとおり加える。
「この点に関して、控訴人は、利益重複の点を減算して、昭和四二年三月一一日を課税時期とする計算については、一年間の利益金額を、金一億七三〇〇万四〇〇〇円から金三〇八〇万円と金二三五四万二〇〇〇円の合計金五四三四万二〇〇〇円を差し引いた金一億一八六六万二〇〇〇円とすべきであり、また、昭和四二年九月一二日を課税時期とする計算については、一年間の利益金額を、金八四四一万一〇〇〇円から金二三五四万二〇〇〇円を差し引いた金六〇八六万九〇〇〇円とすべきである旨主張する。
いずれも成立に争いがない甲第八七、八八号証、当審証人加藤邦元の証言、並びに弁論の全趣旨によると、名古屋中税務署長は、訴外会社の昭和四〇年一〇月一日から昭和四一年三月三一日までの事業年度(以下「四一年三月期」という)、及び昭和四一年四月一日から同年九月三〇日までの事業年度(以下「四一年九月期」という)の法人税の変更をなすに当たり、訴外会社が従前製薬会社からの補償金を、現金主義により経理していたのを、発生主義に改めさせるため、四一年三月期の法人税につき、未収補償金として金三〇八〇万〇〇七六円を加算し、また、四一年九月期の法人税につき、前期で加算した金三〇八〇万〇〇七六円を減算したうえ、新たに未収補償金として金五四三四万二五一八円を加算したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
そして、四一年九月期後の事業年度において、未収補償金に関する経理方法の誤りに基づく更正がなされたことにつき主張立証がないことからすれば、訴外会社は四一年九月期後においては、発生主義によって未収補償金を経理しているものと推認される。
右認定の事実に基づいて判断すると、補償金の経理方法を現金主義から発生主義に改めた場合、ある事業年度において現に収受した補償金と単に債権として発生したにすぎない未収補償金とをともに計上せざるを得ないところ、事業を継続している法人の法人税の場合では、結局いずれの事業年度の所得金額として計算したうえ課税がなされるかの問題にすぎないが、本件の場合のように、株式の評価をなすに当たっての一株当たりの利益金額を計算する場合には、現金主義による補償金と発生主義による未収補償金とを同時に計上すると、当該事業年度の利益金額が不当に高額になるから、これを現金主義か発生主義かのいずれか一方に改める必要が生じる。この点に関しては原判決は、四一年三月期について発生主義によって利益金額を算定しようとしても、その前記の期末未収保証金の金額が証拠上不明であるため、発生主義による未収補償金三〇八〇万円を減算して、現金主義によって利益金額を算定したものであり、一方、四一年九月期においては、前記の未収補償金の金額が三〇八〇万円余と明らかであり、前記更正においてすでに右金額が減算になっているから、控訴人主張のような減算をしなくとも、発生主義によって利益金額の算定がなされていることになり、そこには利益金額の重複が何ら存しない。そして、昭和四一年一〇月一日から昭和四二年三月三一日までの事業年度についても、確定申告の段階においてすでに発生主義により所得金額の計算がなされているから、同様に控訴人主張のように減算をしなくとも、そこには利益金額の重複が何ら存しない。
したがって、控訴人の右主張は、採用することができない。」
4 原判決一二三枚目裏四行目の「現に」から同一〇行目の「いるのであって、」までを削り、同一二五枚目表九行目と一〇行目の間に、行を変えて次のとおり加える。
「そして、本件処分が昭和三九年ないし昭和四三年分の贈与税に関する処分であるうえ、前示のとおり、租税行政の公平性ないし一貫性から、ある程度画一的な基準を設定する必要があることに鑑みれば、いずれも原本の存在及びその成立に争いのない甲第九五乃至第九八号証によっても、右判断を覆することはできない(殊に、日本公認会計士協会近畿会税務委員会が、類似業種比準方式により非上場株式の評価をする場合、非流通性レシオ三〇パーセントの外に、さらにリスクレシオ三〇パーセントを調整減価すべきであるとの意見書を公表したのは、平成元年六月三日のことである)。」
5 原判決一三七枚目表六行目の「別表二二」を「本判決別表二二(同表は、原判決別表二二の「39.3.16」の行の「1.052」を「1.298」に訂正したことに伴い計算し直したものである)」に、同九行目の「同二二」を「本判決別表二二」にそれぞれ改める。
6 原判決一三七枚目裏四行目の「別表二二」を「本判決別表二二」に、同五行目の「別表二三」を「本判決別表二三」に、同一〇行目の「別表二四」を「本判決別表二四」にそれぞれ改める。
二 そうすると、本件処分のうち、控訴人の昭和四一年分の贈与税の更正及び過少申告加算税の賦課決定処分、昭和四二年分の贈与税の決定及び無申告加算税の賦課決定処分(但し、いずれも異議決定及び審査裁決により一部取り消された後のもの)は右に認定した贈与税額を超えることがないから、適法であるが、昭和三九年分の右各処分のうち、贈与税額二五万八七〇〇円、無申告加算税金二万五八〇〇円を超える部分、昭和四〇年分の右各処分のうち、贈与税額一三五万九六〇〇円、無申告加算税金一三万五九〇〇円を超える部分、昭和四三年分の各処分のうち、贈与税額三六五万一六〇〇円、無申告加算税金三六万五一〇〇円を超える部分は、いずれも違法というべきである。
したがって、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、本件処分のうち右に認定した違法部分の取消しを求める限度で正当としてこれを認容し、その余りを失当として棄却すべきである。それ故、これと一部異なる原判決は、その限りで相当でない。
しかしながら、原判決中昭和三九年、同四〇年、及び同四三年分の各処分について、右と異なる部分につき被控訴人から不服の申立てがないので、原判決を控訴人の不利益に変更することはできず、結局、控訴人の本件控訴を失当として棄却することに止めることとする。
よって、控訴費用の負担について行訴法七条、民訴法九五条本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 土田勇 裁判官 水野祐一 裁判官 喜多村治雄)
別紙二二 比準価額の計算
<省略>
別表二三 贈与税額等の計算
(類似会社、類似業種比準価額法)
<省略>
別表二四 贈与税額等明細表
(類似会社、類似業種比準価額法)
<省略>